国会活動
審議法案:健康・医療戦略推進法案
(参考人)
・永井良三 自治医科大学学長
・濱口道成 名古屋大学総長
・武村義人 全国保険医団体連合会副会長
○山本太郎君 参考人の先生方、本日は本当にありがとうございます。現職の国会議員は私独りぼっちでございまして、五人以上の国会議員という政党要件をいまだに満たしておりません、新党ひとりひとりの山本太郎と申します。よろしくお願いいたします。
まず、健康・医療戦略推進法案第十二条、研究開発の公正かつ適正な実施の確保に関して質問させていただきたいと思います。参考人の先生方お一人お一人に同じ質問に答えていただきたいと思います。
前回の質疑でも質問いたしたんですけれども、医療分野の研究開発では、最近、ノバルティス社のディオバン問題、武田薬品工業のブロプレス問題などの重大不祥事続いていますよね。この背景には、製薬協会、この加盟している七十社が、医療機関などへの研究開発費用、二〇一二年度では一年間に総計で約四千七百六十五億円もの資金提供をしていると。一方で、厚生労働省の科学技術研究費、科研費と呼ばれるもの、これ、その十分の一の四百六十億円ぐらいしかないんですよね。ディオバンとかブロプレスなどの重大不祥事、このような事実が、背景というものがあるんじゃないかなと思っているんですけれども、医療分野での研究開発の不祥事をなくして研究開発の公正かつ適正実施を確保するためには、日本製薬工業協会の自主的な透明性のガイドライン、それに任せるだけではなく、資金提供の情報公開と透明性確保のための法律、これ制定しなきゃいけないんじゃないかなと思うんですけれども、参考人の先生方の御意見、伺えればと思います。
○参考人(永井良三君)(自治医大学長) この臨床研究にまつわるいろいろな不正の問題、まず、もちろん教育、倫理に対する教育ということが必要かと思います。また、透明化ということかと思います。ただ、あわせて、その臨床研究を行うためのシステム整備ということも重要でありまして、利益相反等の問題を早くからキャッチするためにはモニターをしないといけないと思います。そうした監視機構ということがまず非常に重要になってくるんではないか。
そのためにも、この臨床研究というのは基礎研究よりも実は膨大なお金が掛かってまいりますので、その研究費の用意、あるいはその受皿というものをどうつくるかということ、これも実は戦後日本で非常に遅れてきた分野でございます。我々の世代の時代は産学連携粉砕という時代で、大学は目的を持った研究費を受け入れられないと、そういうことで委任経理制度というのは発達してまいりました。委託研究的なものが発達したのは法人化以降、あるいはこの数年ではないかと思います。そうしたシステム整備の遅れということもこの問題の背景にあるのではないかと思います。
それから、諸外国では臨床研究が法制化されておりまして、治験と同じ基準でされていることが多いと聞いております。そういたしますと、臨床研究のデータがそのまま治験データに使われるために、薬事承認が早まるわけです。そうした体制を日本もつくらないといけないと言いつつ、実はそれは極めて膨大な大変な作業になりますので、現場も行政もちゅうちょしていたということではないかと思います。
しかし、この一連の事態を見ますと、大きな研究については、恐らく欧米と同じような法制化の下に行われる必要があると思いますし、モニターもしっかりしないといけない。しかし、どこまでそれを広げるか。本当に数例の、ちょっと検討するようなことまで法制化で行うのかということについては、その範囲、カバーする範囲については十分議論が必要ではないかと思います。
○参考人(濱口道成君)(名古屋大総長) 御指摘のとおりの問題が起こっておりますし、現場を預かる者としては深い責任を感じております、この間の経緯ですね。じゃ、その予算を増やせばいいのかといいますと、これは、私はそれでは問題は解決しないだろうと思っております。
今の臨床研究は、一つ、片方で、永井先生のおっしゃったように大変コストが掛かります。一方で、主任研究者に対する負担が非常に大きい。その臨床現場の例えば医師が、患者さんを診る、病棟を管理する、場合によっては手術もしながら治験管理をして実用化をしていくと、これを全て一人、あるいは小さなグループが背負ってやっていくというのはもう現代的ではないんですね。非常にクラシカルなスタイルだと。それをいかに組織としてサポートするのか。それから、安全管理をピアレビューで第三者が入れるのか。それを現場に近いところでいかにその構造をつくるのか。これが大きな課題であると思います。
それから一方で、全ての病院に現場に近いところでそういうのをつくると、またこれはコストが掛かります。ですから、一定の拠点病院できちっと管理をできる体制をつくって、全国くまなく、面で押さえるような組織化、連携をつくりながら、特定のセンターに管理の責任をしっかり負わせて、そこで専門家を養成するという時代になってきているのではないか。臨床データを統計できるような人材であるとか、治験管理をできる存在で、倫理をきちっと管理できる、あるいはパテントの管理ができる人、こういう専門家を一定の地域に確実に養成する組織体制を抜きにしては、特定の研究にコストをどんと掛けて、コストが掛けられなくなったらその研究は突然死を迎えるような、こういう個人ベース、プロジェクトベースのシステムはもう遅いんではないかというふうに実感しております。
○参考人(武村義人君) (全国保険医団体連合会副会長)二人の研究の先生の方のお話、もっともだと思いますし、このように文章にこう書かれますと、そのとおりであるなというふうには思いますけれども、現実問題として、この下に書いてありますね、ヒトゲノム問題。東北メディカル・メガバンク、これの説明の仕方、同意の得方、趣旨、本人にきちっと分かるようにどのようになされておるのか。これは現場のお話を聞いていただいたら、かなり乱暴な状況で、いわゆるヘルシンキ宣言とか、いろんな宣言に反するような状況で行われているということがあります。
現にまだ、もう一つ大きな問題としてはビッグデータですね。これから医療供給体制の問題でそのデータがいろいろ活用されるとは言われていますけど、今でも保険会社にレセプトのデータが売り買いされたりとか、個人情報がいろんな意味で、まあ名前は出るかどうかは別として漏出しております。
その辺のことをさておいて、このきれい事を上に積んでもらっても、私たちはこれはちょっとなかなか納得しづらい問題があるんじゃないかなと、現場の人間からするとそういうふうに思います。
以上です。
○山本太郎君 ありがとうございます。大変勉強になりました。
もう一つ、三人の先生方にお伺いしたいことがあります。
最近、小学館のビッグコミックスピリッツという雑誌の「美味しんぼ」という作品で大きな反響を呼びました。どういう内容であったか。東電の福島第一原発事故で、東日本一帯にまだら状にばらまかれた放射能被害による低線量被曝の問題ですよね。私も議員になる以前から原発事故以降、多くの人々から鼻血を始め多岐にわたる体調不良の話を聞いており、強い関心を持っておりました。被曝による影響で鼻血が出たとも取れる作品中の表現に対しまして、デマだという説が一部ネット、一部メディアを通して流されまして、永田町かいわいでも風評被害だと断定するコメントも散見されました。
私が思うに、これは風評被害でも何でもないと思うんです、実害じゃないかと思うんですよね。何の実害なのか。詳細な東日本一帯の多核種に及ぶ土壌汚染調査や広範囲に及ぶ健康調査などをほとんどやらずに放置した、行政が生み出した実害だと思うんです。本当の風評被害を生み出さないためにも、多くの人々の不安、心配にこたえるためにも、国連人権理事会の健康に対する権利の特別報告者の報告、いわゆるグローバー勧告にもあるとおり、一年間に一ミリシーベルト以上の被曝をする地域に生きる人々、希望者全員に対して無料の健康調査を継続的に実施していくしかないと思っているんです。
先日、当委員会の質疑で、私の健康・医療戦略推進法案はアベノミクスの成長戦略法案ですかという問いに対して、菅官房長官は、成長の産業として育成していくということもその一つであることは間違いないわけでありますけれども、ただ、その前提として、やはり多くの国民の皆さんが健康で安心をして長生きをすることのできる社会を形成するということがその大前提としてあるわけでありますと菅官房長官もおっしゃったこの法案の審議、参考人として来ていただいている先生方お一人お一人に御意見を伺いたいと思います。
この低線量被曝の問題、あるいは年間一ミリシーベルト以上の被曝を受ける地域にお住まいの人々、希望者全員に無料の健康調査をして、データを当事者と共有して、それを蓄積していく必要があると思われますか、若しくは必要ないと思われますか。
○参考人(永井良三君) 科学というのは、理屈で進める部分と、ばらつきということをどう捉えるかという二つの側面がございまして、今の低線量被曝の問題は、非常に確率が低いけれども重大な結果をもたらすかもしれないという、この辺の事実をやはりしっかり押さえるという問題ではないかと思います。
理屈の問題とばらつきの問題と両方ありますので、私は、まず事実、言わば疫学でございますね、PDCAサイクルのチェック、アセスメント、これをしっかりするということで、この調査をすることは非常に大事だと思っております。
○参考人(濱口道成君) 永井先生と同意見でございますが、この放射線被曝による被害の問題で、一番よく分からないのが低線量被曝だと思います。従来の研究は、高濃度で短期間掛けたらどういう影響が出るかという研究がほとんどでありますし、広島、長崎の結果も高濃度被曝、瞬間的なもののフォローアップであります。ですから、実態がよくまだ見えていないというところが正直なところである。
鼻血が出るという問題というのは、これは血小板が減ったと考えると、従来の概念でいったら高線量被曝だと思うんですね。そこのギャップはあるんですけれども、体質によってそういう反応が起きる方も見えるかもしれない。つまり、人間というのは多様性が基本ですので、平均値では測れないものがあります。それが医学研究のまた難しさでもございます。
現時点では、大事なことは、政策的に判断するとすれば、国民の不安を解消するために最小限何をやるかということは、御決定いただくことは効果があるだろうと。これは、科学的に分析したり判断する領域を超えているように実は感じております。
○参考人(武村義人君) お二方がおっしゃられたとおりですし、やっぱり責任を持って正しい情報をきちんとそこの部署がやっぱり伝えていくと、日々刻々ですね。それと、起こった事象はやっぱり事象として、うそかうそでないかは別として、やはりそれはきちんと受け止めていくと。甲状腺のがんの数の問題、最初少なかったですけれども、多くなってきたらちょっと影響あるんかなという話が、そんなことはさておいて、やっぱりそれぞれ個人個人の方の命と健康を第一にしながら状況を見詰めていくということに尽きるんじゃないかなと思いますし、大きな目から見ますと、やっぱりあの地域は閉鎖せにゃいかぬのかなという学者の先生もいらっしゃいますけれども、これはもう小さなことからの積み重ねであろうと思います。
でも、何にも増して私が今ちょっと関係ないかもしれぬけど腹が立つのは、首相がオリンピック招致のときにおっしゃったあの言葉は、あれは福島県の県民の方はどのように感じられているのか知りませんけど、やっぱりああいう立場で物を言われると、どうもデータが信用できなくなっちゃうということでは、やはりもう少し科学の目でちゃんと追及していくべきだろうなと思います。
以上です。
○山本太郎君 ありがとうございました。
この低線量被曝という部分に関しましては、確定的被曝と違って確率的ということで個人差があるんだよと。それはそうですよね、ライフスタイルがみんな違うわけだから。食べているもの、暮らしている場所、みんな違うわけだから、それぞれにどのような変化があったかという、そのデータをしっかりと取っていくということが一番重要だと思うんですね。
本当に、事故を起こした事業者、そしてそれを後押しした国の責任というものをしっかりと見詰め直して、それを広い範囲で事故前の基準というものに立ち返って、だから年間一ミリシーベルト以上の人たちに対して無料で健康診断というものが必要であるしということをもっと深く考えていただければなと思うんですけれども、この問題につきまして、次回の質疑で取り上げたいと思っております。
「美味しんぼ」の作品中に登場します福島県の双葉町の前町長、井戸川克隆さんを参考人として是非お呼びしたいということを今朝の理事会でお願いをいたしました。先生方の御協力と御理解、是非よろしくお願いいたします。
ということで、私の質問を終わらせていただきます。ありがとうございました。
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