国会活動
2015.9.16 安保特 横浜地方公聴会
2015年09月24日
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議事録無し
資料①
(公述人)
●前海上自衛隊呉地方総監・海将伊藤俊幸
●専修大学教授・東京大学名誉教授・元副学長・前日本学術会議会長広渡清吾
●東京財団上席研究員渡部恒雄
●弁護士・青山学院大学法務研究科助教水上貴央
○山本太郎君 生活の党と山本太郎となかまたち共同代表、山本太郎と申します。よろしくお願いいたします。
先生方の貴重な御意見、本当にありがとうございます。
私が本日お聞きしたいのは、自衛隊の海外での活動、国際法上の正当性についてお聞きしたいと思います。
先生方のお手元には、以前パネルとして作ったものを、このパネルですね、これをコピーしてお渡ししていると思います。
このパネルのとおり、8月25日の本委員会で私は安倍総理と岸田大臣に質問いたしました。総理は、ある国がジュネーブ諸条約を始めとする国際人道法に違反する行為を行っている場合、そのような行為に対して我が国が支援や協力を行うことはございませんと答弁。協力を行わない範囲につきましては、おとといの私の質問に、米国も含め、変わることはないと答弁されました。
また、岸田大臣は、8月25日、総理答弁の後、直接支援していない行為以外の部分において仮に国際法違反がもし確認されたとしたならば、それが国家として組織的に行われているものなのか、あるいは一部の兵士の命令違反によって行われているものなのか、これを具体的に判断することによって我が国の対応を考えていく、これが基本的な方針であります、これからもこうした方針をしっかりと守っていくのが我が国の協力、支援のありようでありますと答弁されました。
そこで、まず公述人の先生方全員に伺いたいと思います。
もし今後、自衛隊が支援や行動を共にする諸外国の軍隊が民間人を殺傷するなど国際人道法違反や戦争犯罪を起こし、自衛隊がそれに巻き込まれ、共犯者になるようなことがあっては絶対にならないと考えます。いかがでしょうか。
できれば一言ずつ、コンパクトに全ての先生方にお聞きしたいんですけれども、よろしくお願いいたします。
○団長(鴻池祥肇君) では最初は、水上公述人からお願いいたします。
○公述人(水上貴央君) コンパクトにということですから、当然そうであると考えています。
○公述人(渡部恒雄君) 基本的にはこの答弁のとおりだと思いますが、国際社会というのは世界政府みたいなのがないのでなかなか難しいので、そこは、自分のところの国益も冷静に考えるという結構したたかなところが要求されると思います。
○公述人(広渡清吾君) 事前にこういう危険な状態が生じないように、節度を持った日本の行為が必要だと思います。
○公述人(伊藤俊幸君) この前提というのは、恐らく国連による決議あるいは一定の国際社会の決議の下に何かをやっている、そこに支援をしているということだと思いますので、そことの関係で決めることだと思います。
○山本太郎君 ありがとうございます。
自衛隊の支援の国際法上の正当性、これを確立するためにも、自衛隊員を戦争犯罪に巻き込まないためにも、これ事前に行動を共にするであろう国をリストアップして、それらの軍隊がこれまでに行った戦争で国際法上の正当性があったか、戦争犯罪がなかったかなど、第三者委員会による検証、これ必要不可欠じゃないかなと思うんですよね。その上で支援国リストに入れるのか入れないのかを検討する必要があります。そのように私は考えます。いかがでしょうか。
このような仕組み、必要であるか必要ないか、コンパクトに、先ほどのように一言でお答えいただけると助かります。
○団長(鴻池祥肇君) 伊藤公述人からお願いいたします。
○公述人(伊藤俊幸君) これまでも、テロ特措法ですとかいろんな特措法を作っていますが、その都度きちっとした情報収集をして、そういった前提を全部考えた上で我が国は派遣をしてきたというふうに認識しています。
○公述人(広渡清吾君) アメリカのイラク戦争については、フランスの国際法学者は明確に侵略だと認定しました。こういう議論が国際法学会の中にあります。したがって、この支援リストを作ると、アメリカが最初に支援の対象国にならないということになると思います。
○公述人(渡部恒雄君) 今の広渡公述人の話と同じ部分があって、だからこそしたたかにと言ったわけで、日本はアメリカと同盟を組まないで日本を守れますかという現実的なところが必要であると同時に、だからこそ同盟国が国際法を違反するようなことをしないようなことを不断に働きかける。
逆に言えば、過去にこういうものがあったから駄目というような、そんなことを言ったら、日本だって過去にいっぱいありますので、どことも組んでもらえません。現時点でどういうふうになっているかをよく見て決めることだと思います。
○公述人(水上貴央君) 私は、三つ要件があると思っています。
一つは、この法律自体に明確に国際法上適法な行為しか支援しないということを条文上法定するということです。二つ目は、実際にどのような行為が支援対象となり得る適切な行為なのかということに対する判断基準、要件というものを明確に決めて公開するということです。その上で、第三者委員会がその要件該当性との関係でどうなっているかということを事前に審査することになります。
その点では、渡部公述人がおっしゃっていましたけど、過去に悪いことをしたという国があったとして、その国が自動的に全部駄目なのか、将来に向けてどう考えているのかということをきちっと相談をした上で、今後はそういうことはしませんということを約束してくれるのかどうかということを含めて判断することになると思いますが、将来において国際法上適法とは言えないような武力攻撃をすることが十分な蓋然性を持って予想される国に対しては、当然、後方支援はできないということになるだろうというふうに思います。
○山本太郎君 ありがとうございます。
伊藤公述人にROE、ルール・オブ・エンゲージメントについてお伺いしたいと思います。
ROEは、自衛隊では部隊行動基準、米軍などでは交戦規定と言われるそうですけれども、日本の自衛隊と米軍が共同訓練をするときなどは、米軍のROE、自衛隊のROE、どちらのROEによるのか、それとも新たな別のROEを作るのか。ちょっとコンパクトに教えていただけると助かります。
○公述人(伊藤俊幸君) 訓練の場合は訓練用のROEというのを作って、それで考えるということです。
○山本太郎君 その訓練用のROEというのはどちら側に寄ったものなんですか。米軍側なんですか、自衛隊側なんですか。
○公述人(伊藤俊幸君) そのものがどういうものか、私はちょっと見ていないんですけど、基本的には日本の考え方だと思います。
○山本太郎君 ありがとうございます。
もし自衛隊が米軍に対しての駆け付け警護を行うという事態になれば、より国際法違反に巻き込まれる確率というのは格段に跳ね上がると思うんですよね。誰が敵か味方かも分からない修羅場に身を置くことになりますよね。イラク戦争での米軍のROE、交戦規定はしょっちゅう変更されたと、最終的には振り向くたびに交戦規定が変更されたとイラク戦に参加した多くの米兵たちが証言しています。イスラムの衣装の者は撃て、息をする者は撃てとまで交戦規定が緩和されたと。修羅場ですから当然ですよね。
大人、子供、性別関係なく虐殺された現場が幾つも存在し、米軍による国際人道法違反、戦争犯罪が海外メディアでは数多く取り上げられました。建国239年、その歴史の90%戦争をしているとも言われる、戦争で経済を回している、主な産業の一つが軍事だと言えるこの米国、戦争犯罪の常習国とも言えるんじゃないかなと私は思います。
2003年、国連の査察団、イラクは全面的に受け入れました。UNMOVIC、ハンス・ブリクス元委員長がもうそれを証言されています。五百か所、七百回の調査を行った、大統領宮殿まで調べた、大量破壊兵器はない、査察団が結論付けても、アメリカは無理やりイラク戦争を始めました。そればかりでなく、アフガン戦争、テロとの闘いにおいても、数多くの、数万人以上の女性、子供たちを含めた民間人、市民を殺害している。
私は、先ほどの総理と外務大臣の答弁を担保するためには、特にイラク戦争での国際法上の正当性についての検証、不可欠と考えます。以前、外務省の検証、行われましたけれども、いつものお手盛りでした。イギリス、オランダでは既に検証委員会が存在し、何度も検証が重ねられ、その様子はネットでも中継をされ、総括が行われ、当時の閣僚が謝罪などを行っています。当時、我が国は正当性をしっかりと見極めずにアメリカに追従、真っ先にイラク戦争に賛同、自衛隊も派遣されました。その総括もなく、自衛隊の活動の拡大。政治家は自衛隊の存在を軽く見過ぎているんじゃないかなと思うんですよね。活動拡大の前に、以前行われた派遣に対して、その戦争に対しての独立性の高い検証、必要だと思うんですよ。イラク戦争を知るジャーナリスト、NGOの人々も含めた第三者委員会による検証、必要不可欠だと思うんです。
したたかに考えるということを考えた上でも、こういうものは必要だと思うんですけれども、いかがでしょうか。そのような第三者委員会による検証、必要があるかないかということを先生方にお聞きしたいと思います。必要はないと言われる方は、ちょっと合理的なお答えを聞かせていただければ助かります。お願いします。
○団長(鴻池祥肇君) 伊藤公述人からお願いいたします。
○公述人(伊藤俊幸君) まず、イラク戦に参加したというのは、私は間違いだと思います。これはあくまでも復興支援です。要するに、もうイラクのその後、終戦の後の復興をどう支援するかという形に参加した枠組みだったということだと思います。
それから、先ほどのROEについても、まるで戦争を拡大するようなものをROEと捉えておられるかもしれませんけど、逆だと思います。いかにこの状態を抑止的にするかどうするかという、この概念に持ってくるのがROEの考え方です、交戦規定。これは軍事的常識です。
以上のことから、それから先ほどの議論ですが、私は、政府あるいは国会というところでしっかりした情報を持って議論をしていただいた上で、こういったものは出していただければいいんだと思います。
○公述人(広渡清吾君) 今回の法案を前提に今の御提案があるとすると、今回の法案はとにかく廃案にしてというのが私の立場ですから、今後、誇るべき新しい安全保障関連法案が出てくる場合には、国際的な平和支援の活動の中で山本議員がおっしゃったようなシステムを一緒に考えるということは一つのアイデアではないかと思います。
○公述人(渡部恒雄君) イラク戦争の検証というのは、アメリカのイラク戦争の検証を日本でということでいいんでしょうか。それとも、イラク戦争での日本の対応の検証を日本でということでしょうか。
○山本太郎君 答えていいんですかね、これ。委員長、答えていいですか。
○団長(鴻池祥肇君) 先生の時間がもう既に来ておりますので、この件だけ一言で答えていただきたいと思います。
○山本太郎君 ありがとうございます。
もちろん、日本側が参加したという目線からと、その戦争全体に対してのというものの検証が必要だと思っています。
○公述人(渡部恒雄君) であれば、アメリカのいいところは、イラク戦争は大変失敗したという問題意識を持って向こうで検証していますから。アメリカはしていますよね、ナイン・イレブンに対しても。
日本も、それも参考にしながら、そういうものを幅広く検証しながら次の参考にしていくということはありだと思います。
○公述人(水上貴央君) ついこの間の国会の審議、14日ですかに福島委員からイラク戦争については質問がありまして、大量破壊兵器については結局なかったではないですかということで、そのなかったということを前提にした場合は、やはりこの戦争への支援は間違いだったのかというような御質問がありましたが、それに対して、正確には資料2の9ページ目に写していますので見ていただければと思いますが、妥当性は変わらないというのが政府の判断でございますというふうに答弁をしています。
そういう意味では、ある意味では総括していて妥当だというふうに言っているということだと思いますが、どうして妥当なのか、何の基準でアメリカ自身があの戦争については適法性がなかったと言っているものについて我が国は妥当だと考えるのかという基準に対する説明は全くなされていない、単に妥当だと言っているという状況は大変危険なことだと思います。
したがって、当然、明確な判断基準を持った上で、事前に第三者委員会みたいなものが開かれて判断基準が明確になっているということがまず極めて重要で、この法案、継続審議にした上で、次の国会までの間にそういったものをしっかりと準備するということについて議論していただければと思います。
【公述人発言】
○公述人(伊藤俊幸君) 私は、先月まで海上自衛隊の呉地方総監を拝命しておりました伊藤と申します。
本日は、元幹部自衛官として、本法案に賛成の立場として意見を述べさせていただきます。
我が国の平和と独立を守る、これが自衛隊の使命です。平和を守るとは、今の平和な状態を維持し、戦わなくてよいようにすることです。我が国は、外交等あらゆる平和的手段を用いて平和を維持する努力をしています。その平和的手段の一つが抑止力を高めることです。一定の軍事力を持つことで日本を侵略しようとする他国の意図をくじく抑止力、これが、戦後、我が国のみならず世界中の軍隊の主たる役割であります。日米安全保障条約に基づき米軍とともに活動することで、この抑止力は更に強固になっています。
最近、南シナ海の島嶼で中国の施設等が建設され、トラブルになっていることは御承知のとおりです。中国は、1950年代に南シナ海全域を自国領域だと勝手に宣言して以来、1987年には海軍艦艇がパトロールを開始し、翌年には各沿岸国と軍事衝突し、あっという間に島嶼を占領してしまいました。
実は、同じことが東シナ海の尖閣列島でも起こっています。1971年、尖閣は中国のものだと突然宣言して以来、1999年からは海軍艦艇のパトロールも始まっています。しかし、その後16年がたちましたが、尖閣は占領されていません。また、ベトナムの船舶は、中国の巡視船、海警から国際法違反の体当たりや放水を受けています。一方、尖閣では、その巡視船、海警は、時々領海侵犯はしますが、基本的にはおとなしく徘回しているだけです。
この違いは何でしょうか。そうです。現時点においても、東シナ海では中国に対する一定の抑止が効いていると言えます。海上保安庁や自衛隊による警戒監視、そして日米同盟が島嶼を占領しようとする中国の意図をくじいているのです。
最初に申し上げたいのは、現在議論になっている平和安全法制は、この抑止力を更に強化し、現状を変更しようとする他国の意思をくじくための法律だということです。
次に、独立を守るについて申し上げます。
抑止が効果を発揮できず、他国からの侵略が始まった場合、我が国は、独立を守るため、自衛権を発動し対処することになります。この対処方法を規定するため、武力行使の旧三要件がありました。特に三番目の要件、必要最小限度の実力行使、これは極めて重要です。憲法9条2項で交戦権を否定している我が国に認められる武力行使とは、相手国からの攻撃を排除することだけをいうのです。それ以上の行為、すなわち相手国の領域に入り反撃、攻撃することはできません。
剣道でいうならば、打ってきた相手の刀を払いのけるだけで、反撃に転じて相手の面や胴を打つことはできないのです。相手国からのミサイル攻撃が排除しても排除しても終わらない場合、ミサイル発射基地ぐらいは攻撃してもよいのではないかとの敵策源地攻撃といった議論がありました。これは、攻撃武器たる刀、これを持っている小手ぐらいは打ってもよいのではないかとの議論と解釈できます。
このように、我が国が直接攻撃を受けているまさに日本有事の場合であっても、日本の領海、領空、領土及び公海、そして、その上空に存在し、我が国に攻撃を加えてくる相手国の軍艦、軍用航空機、ミサイル、機雷等を排除することだけを我が国では武力行使と称するのです。したがって、自衛隊に代わって更なる侵略を止めるため相手国に米軍が反撃を加える、これが日米同盟の関係なのです。それくらい、この必要最小限度の実力行使という文言は、交戦権を否定している憲法九条第二項に極めて忠実な要件なのです。
さて、昨年7月の閣議決定で新三要件に変わりましたが、この必要最小限度の実力行使は全く変わっておりません。第一項に、我が国と密接な関係にある他国に対する武力攻撃の要件が加わりました。この文言の後ろには、これにより我が国の存立が脅かされ、国民の生命、自由及び幸福追求の権利が根底から覆される明白な危険という、憲法13条で我が国政府が国政上最大の尊重をしなければならない権利が加えられています。つまり、他国への武力攻撃が我が国の防衛と密接に関係するか否かという判断条件が付いているのです。
では、他国に対する武力攻撃がこれに該当するとはどのような場合でしょうか。これを他国ではなく他国軍隊に対する武力攻撃と読み換えると理解しやすいと思います。例えば、再び朝鮮半島有事が生起したとします。ちなみに、朝鮮戦争は国連軍と北朝鮮が戦ったものです。今も、在韓米軍司令官は同時に国連軍司令官です。もう一度朝鮮半島有事となれば、国連軍が再度立ち上がります。したがって、これまで米軍にしか支援できなかった周辺事態法に加え、国連に寄与する外国軍隊への支援もできるようにしたのが重要影響事態安全確保法です。
さて、この朝鮮有事が波及し、北朝鮮が日本に向けて大陸間弾道弾等を発射すると予測される危険、これが生じたとします。当然、ミサイル防衛のため、公海上にイージス艦を含め各国艦艇が配備されるのでしょう。このように、まだ日本有事ではないものの危険が予測される状態、いわゆるグレーゾーン事態で他国軍隊が我が国を守ることは十分あり得るのです。仮に、この状態で敵潜水艦が当該艦艇を攻撃したとします。旧三要件の下では、日本有事ではないことから、自衛隊は当該潜水艦を排除することはできません。
このように、これまでの考え方だと、我が国を守ってくれているにもかかわらず、他国軍隊に降りかかる火の粉を払ってあげることもできないのです。これをできるようにしたのが存立危機事態の概念です。平素から同盟国や友好国とこれまで以上に緊密な信頼関係を構築することで、抑止力を更に高め、現状変更を試みようとする他国の意思をくじく、今回の平和安全法制の根幹はここにあるのです。
さて、今回、他国で戦争になるという議論があります。これは、国連の中核的考え方である集団安全保障措置についての理解が若干足らないのではないかと思います。七十年前に国際連合ができて以来、国家あるいは国家に準ずる組織が個別の意思を持って他国に対して武力行使をすること、いわゆる戦争という行為は全て国連憲章違反です。戦前においても、不戦条約により戦争の違法化は議論されていましたが、国連憲章第二条四項で、武力による威嚇又は武力の行使、これを慎まなければならないと規定されています。
地球上の全ての国家を一固まりの集団として扱い、もし不当にも他国を侵略した国が存在した場合、その他の国々が集団で制裁を加えてやめさせる、この集団安全保障措置とは、これ以上悲惨な世界大戦を起こさないと当時国際社会が強く誓って確立した平和を維持する基本的な考え方なのです。この典型的な事例が、1990年8月、イラクによるクウェート侵攻後の国連安保理の対応でした。安保理により、非難決議、経済制裁決議、そして武力制裁容認が決議されました。
当時、日本では米国中心の多国籍軍による湾岸戦争と報じられていましたが、国際社会の為政者たちは国連による武力制裁と認識していたのです。ただし、我が国の場合、先ほど来申し上げている必要最小限度の実力行使、この要件により、武力制裁そのものに参加することはできず、支援のみが可能となるのです。また、自衛権行使についても国連憲章は制約を課しております。この武力制裁、これが取られるまでの間だけ認められるもので、かつ国連への報告義務もあります。これは、自衛戦争の名で侵略が繰り返された戦前の反省が国連憲章に込められているのです。
2001年9月11日、米国同時多発テロが生起しました。米国やNATOが個別的及び集団的自衛権を発動したことは皆さん御承知のとおりです。しかし、これらは全てテロ発生翌日の安保理決議によって認められたものであります。米国といえども、自国の意思だけで自衛権を発動できないのです。このように、自衛権行使そのものについても、戦前とは異なり、国連憲章に極めて厳格に取り扱われるようになっております。
国連は各国の意思で成り立っております。何らかの形で軍人か軍隊を出すことが求められますが、参加形態は各国に委ねられています。現在の南スーダンPKOも、ブラヒミ報告どおり、いわゆる七章型ですが、日本は、参加五原則にのっとり、六章型当時のままの編成で参加しています。巻き込まれるとの議論は戦後の国際社会の実情を御存じない方の議論だと思います。
以上、我が国をめぐる国際安全保障環境の変化に対応し、平素から抑止力を高めるため、及び国連を中心とする活動に国際社会の一員として積極的に参加することで信頼される日本として友好国を増やすため、なすべきことを盛り込んだ今回の平和安全法制の一日も早い可決を希望いたします。
以上です。
○団長(鴻池祥肇君) ありがとうございました。
次に、広渡公述人にお願いをいたします。広渡公述人。
○公述人(広渡清吾君) 広渡でございます。
意見を述べさせていただきます。
私は、安全保障関連法案に反対する学者の会の発起人の一人であり、国民の反対運動がどのように広がっているかの例として、まずこの会について簡単に御紹介します。
学者の会は、この6月15日に61名の呼びかけ人によって最初の記者会見を行い、法案反対アピールを採択して、賛同を呼びかけました。現在、学者の賛同者は13989名となっています。お手元の数字から80名更に増えました。また、8月26日には、全国から87大学の有志が東京に集まり、法案反対の合同記者会見を行いましたが、現在、全国の137大学において法案反対の有志の会が結成されています。お手元の資料を御参照ください。
ふだん政治的な活動になじみのない学者の運動がこのように広がっているのは、かつてないことです。しかし、このかつてないことは、学者だけではなく、高校生にも、大学生にも、ママさんたちにも、中年の世代にも、そして高齢者の間でも、また労働者、医師、宗教者、芸術家、弁護士など社会各分野にも生まれていて、法案反対の運動は、文字どおり国民の全階層に大きく広がっています。
その理由は言うまでもありません。今、日本の国民の多くが、戦後七十年の間、日本国憲法の下でつくられてきた日本の国家社会の柱である平和主義、民主主義、そして立憲主義が危機にあることを認識し、安保関連法案が成立するようなことがあれば日本の国の形が根本的に覆されてしまうと考えているからです。
平和主義とは、国際紛争を決して武力によって解決せず、交渉や協議を通じて解決するという原理です。日本国憲法九条はこのことを明確に規定しています。今回の安保法案は、安倍首相がこれからの日本の旗印であるとする積極的平和主義の名の下に、集団的自衛権の行使によって自ら進んで他国に対して戦争を仕掛けること、地理的限定を外した外国軍隊への後方支援の名目で限りなく武力行使と一体化する活動をすること、また、PKOにおいて任務遂行のために武器使用を拡大することを内容としています。安保法案は、これらを通じて自衛隊を武力行使する軍隊として世界に派兵し、自衛隊員が人を殺し自らが殺される事態をつくり出すものであり、そのゆえに多くの国民がこれを戦争法案と呼んでいます。安倍首相の積極的平和主義とは、まさに平和主義と正反対の、武力の積極的使用を意味しています。
安倍政権は、法案の合憲性を言い続け、集団的自衛権の根拠に最高裁の砂川判決を援用しています。しかし、こうした援用はまさに曲解であり、この問題に関わって発言しているほとんど全ての法律家が、すなわち憲法学者たち、弁護士の団体である日本弁護士連合会、歴代の内閣法制局長官、最高裁の元裁判官たち、そしてついには元最高裁判所長官まで法案の違憲性を断じるに至りました。
集団的自衛権は、ある国が他国に武力攻撃を行う場合に、日本が武力攻撃されていないにもかかわらず他国を助けて、そのある国に武力行使をすることを可能にします。つまり、日本がそのある国に戦争を仕掛けるのです。当然、反撃され、戦争に入ることになるでしょう。
安倍首相は、集団的自衛権を認めても、これまでの憲法九条解釈との論理的整合性と法的安定性は保たれていると言いました。これは国民を欺くものです。これまで政府と国会で言わば国是として承認されてきた憲法九条解釈によれば、九条の下では、我が国に対する武力攻撃が行われ、国民を守るためにほかに手段がないときに必要最小限の範囲でのみ武力の行使が許されるのであり、集団的自衛権は、これを超えるものであるから当然に認められないとされています。
安倍政権の新しい解釈は、集団的自衛権も、これまで認められた個別的自衛権と同じように、国民を守るためにほかに手段がなくやむを得ず必要最小限の範囲でのみ行使するのであるから論理的整合性と法的安定性は保たれていると説明しています。しかし、この説明は、一方で我が国が武力攻撃を受けて反撃する自衛権と、他方で他国が武力攻撃を受けたときにそれを助ける言わば他衛権の、二つの本質的に異なるものについて、その行使の要件を似たものにすることで両者があたかも同質のものであるかのような外観をつくり出したものにすぎません。
また、集団的自衛権は具体的にどのような必要性のために使われるのか、立法の必要性の根拠となるいわゆる立法事実も、またどのような要件の下に発動されるのかについても、国会審議を通じて極めて不透明であることが明らかになっています。政府の答弁は、集団的自衛権を認めてくれさえすればあとは政府が適切に行使しますということに帰着するもののように思われます。これは、法治主義の原則からも絶対に認められません。
法案の内容と並んで問題なのは、その進め方が民主主義と立憲主義に対する挑戦だということです。
安倍首相は、決めるべきときに決めるのが民主主義だと言い、この四月にアメリカに約束した手前もあり、今国会で安保法案をどうしても成立させるつもりのようです。しかし、現在の深刻な問題は、国会の多数派と国民の多数派のねじれです。国会の多数派は選挙の投票における国民の主権行使によって成立した多数派ですが、しかし、主権者国民は、その多数派に全くの白紙委任状を与えたわけではありません。ましてや、安保法案は憲法の平和主義を変えようとする重大な内容を持つものです。主権者国民を選挙のときだけの主権者に押し縮めることは民主主義を形骸化させます。
また、安保法案は審議が進むほど重大な問題点が続出し、国会が議論を尽くしたとは大多数の国民が考えていません。現在の民意に耳を傾けることこそ政治家の責務であり、安保法案の強行は、民意を無視し、民主主義、国民主権に背くものです。
安保法案が立憲主義に対する挑戦であるということは、憲法九条の解釈を変更して集団的自衛権を認めた2014年7月の安倍政権の閣議決定に始まっています。日本国憲法の改正は、衆参各議院の総議員の三分の二以上の発議に基づき国民投票によってのみ決定されます。憲法改正は、主権者国民が直接に行使する権限です。このような保障によって、日本国憲法は国会の多数派とその上に成立する政府の権力行使を規範的にチェックする役割を持っています。
元々、安倍政権は日本国憲法の全面改正を目指しています。安倍首相は、憲法九十六条が規定する憲法改正手続のハードルを下げるために九十六条を先行して改正することをもくろみました。しかし、これに対する国民の反発は大きく、また憲法全面改正も当面困難だという状況の下で、集団的自衛権を認め、憲法九条を骨抜きにする解釈改憲を図ったというのが七月の閣議決定でした。政府の権力をチェックする憲法を、チェックされる政府が自分の政策に都合のよいように変更したというのが事態の本質です。
安保法案は、この七月閣議決定を受け、今年の四月、日米両政府が合意をした新たな日米協力のための指針、いわゆる新ガイドラインを経て国会に上程されたものです。新ガイドラインは、安倍政権が既に行政のレベルで憲法九条の骨抜きを既成事実化していることを示しています。これらの一連の事態は、日本国憲法の下での立憲主義の危機を示しています。
日本国憲法9条の下、日本は、戦後70年の歩みの中で武力行使をしない国として世界から信頼を勝ち得てきました。日本国憲法の平和主義は、戦後日本の対外関係の土台であり、日本外交最大の資産と考えるべきでしょう。平和主義の基礎には、戦後、日本国憲法が確立した個人の尊厳の原理があります。武力行使は、人を殺傷することを目的とし、当の自分が殺傷されることを当然に含みます。このことが個人の尊厳と両立しないことは、誰が考えても明らかです。武力の行使が問題を解決するのではなく、問題を生み出すものであることは、現にヨーロッパに押し寄せる難民問題が示しています。違憲の安保法案の強行によってアメリカとの軍事同盟関係を強化する道は、個人の尊厳に基礎付けられた平和主義による日本国家の高い志と道義性を否定し去るものです。
最後に、参議院議員の皆様にお願いをいたします。
違憲の法案を国民の過半数の意思を無視して成立させることにいかなる道理もありません。二院制の下、参議院の独自性と良識に基づいて、全ての議員の皆様が国民の代表として、党議の拘束から離れて、国民の反対と不安を自分の目と耳でしっかりと認識し、法案の違憲性を判断して、法案を廃案にするために行動していただくことを心から希望いたします。
以上です。ありがとうございました。
○団長(鴻池祥肇君) ありがとうございました。
次に、渡部公述人にお願いをいたします。渡部公述人。
○公述人(渡部恒雄君) この度は、参議院平和安全法制に関する特別委員会にお招きいただき、ありがとうございました。
私は、これまで、日本とアメリカのシンクタンクで両国の安全保障政策を研究してまいりました。本日は、安全保障の一研究者として意見を述べさせてもらいます。
今回、公述人をお受けした理由は、今回の平和安全保障法制の審議及び新聞等の報道を目にして、現実と乖離した極端な議論が心配になったからです。それは、日本の民主的な安全保障政策の形成を損ないますし、また、周辺国にも不要な警戒を与え、結果的に日本の安全保障のために良い結果をもたらさないと思います。
まず、国会での建設的な議論の前提として、日本を取り巻く安全保障環境の大きな変化を共通に理解する必要があると思います。
現在の日本の安全保障の法体系は、一九八〇年代までの冷戦期に対応して作られたものです。現在の国際状況には対応し切れていません。もちろん、日本がこれまで何もしてこなかったわけではありません。
1998年に北朝鮮のテポドンミサイル発射実験、こういう状況下で1999年に周辺事態法が定められ、日本周辺の有事への対応も定められました。ただし、周辺事態法は、日本が集団的自衛権を行使しないという制約がございましたので、朝鮮半島有事などの状況で米軍への後方支援を可能にするように定められたものでした。
また、2001年9月11日、米国での同時多発テロを受け、多国籍軍の対テロ作戦の支援を可能にするために同年にテロ特措法が制定されて、多国籍軍のアフガニスタンでの軍事活動をインド洋での海上自衛隊の給油活動で支援することを可能にしました。しかし、これは二年間の時限立法であり、もし同じような行動が必要な場合、新しい立法が必要となり、タイムリーな措置がとれません。
アフガニスタンでの多国籍軍の軍事活動は国際テロとの闘いでした。現在も、シリア、イラクでの過激組織イスラム国の脅威が拡大し、日本人人質二人が犠牲になり、ほかにも、日本人十人が犠牲になったアルジェリア人質事件、5人が犠牲になったチュニジアでの銃乱射事件など、テロの脅威は深刻化しております。
さらに、日本に突き付けられた新しい状況が、尖閣諸島周辺に中国が漁船や巡視船を送るようになったことで新たに認識されたいわゆるグレーゾーン事態です。もし尖閣諸島に国籍不明の武装勢力が上陸した場合、明らかな有事ではない、でも平時ではない、グレーゾーンであって現在の法律が想定していないために適切な処理ができません。
今回の法制は、日本が自国をより確実に防衛すること、それから東アジア地域及び世界の安全保障環境を安定させるために行うべきことを法的に担保するものだと思います。それによって日本の防衛能力を向上させて、平和を維持させ、日本を取り巻く環境を安定させて、日本が侵略されたり、あるいは軍事の圧力に屈するようなリスクを少なくするということが目的です。
冷静に考えれば、日本の限られた資源と防衛力だけで日本の安全を守れないことは明らかで、米国という世界最強の軍事力を持つ同盟国との共同対処が想定されているからこそ、そうでない場合に比べて少ない予算とリスクで自国の安全を確実に守ることができます。
今年1月、内閣府の世論調査において、日本の安全を守るためにはどのような方法を取るべきかという問いに対して、日米の安全保障体制と自衛隊で日本の安全を守ると答えた人の割合が八二・三%もありまして、国民はその点はよく理解していると思います。
ただ一方で、国民の中に今回の法案について不安があります。これまで平和を維持してきた政策が変わるわけですから、日本のリスクが増えるのではないかという、こういう不安があります。しかし、国際環境が変わっているのに古い想定のままだと、適切な行動が取れずに、むしろ日本の平和を損なうことになりかねません。
今回の法制の重要な目的の一つは、日本の防衛及び東アジア地域の平和に極めて重要な役割を果たしている米国の軍事プレゼンス及び日米同盟をより持続的で安定的なものにするための一連の措置であるということと私は理解しております。
1999年の周辺事態法は、朝鮮半島等の有事で日本が米国に後方支援をすることを可能にするということを定めた法律でしたが、集団的自衛権を行使しないという解釈の制約があったために限定されていました。
今回の法制では、集団的自衛権を一部行使できるように解釈を変えて、米国や関係国により幅広い協力をすることを可能にしました。この法律を基にして、平時から米国や関係国と共同訓練を行って準備しておけば、いざというときに同盟が機能するというだけではなくて、それを潜在的な挑戦者に見せておくことで、軍事攻撃をためらわせて未然に防ぐことが期待できます。
さきの世論調査から見る限り、多くの日本人は日米同盟がいざというときに日本の防衛のために機能してくれるということを願っているはずです。では、法案への不安はというと、日本が望んでいないのに日本の防衛と関係ない場合のアメリカの戦争に巻き込まれることだと思います。これを国際関係論では、同盟に対する典型的な感情の一つ、巻き込まれの恐怖と呼びます。この逆の恐怖を見捨てられの恐怖と呼びます。日本人が今考えるべきは、一方のリスクだけを見て感情的に、情緒的に判断するのではなく、両方のリスクを勘案して、日本の平和にとって最善の策を取ることです。
今回の法案及び国際関係の現状を冷静に観察すると、日本の巻き込まれのリスクは人々が今不安に思っているほど大きくないと考えられます。今回の法案では、集団的自衛権の一部行使は、我が国と密接な関係にある他国に対する武力攻撃が発生し、これにより我が国の存立が脅かされ、国民の生命、自由及び幸福追求の権利が根底から覆される明白な危険がある事態、いわゆる存立事態、それからもう一つ、読みませんが、重要影響事態、この二つのケースのみに適用されるからです。
このようなケースとして考えられるのは朝鮮半島等での有事ですけれども、日本が米軍や韓国軍などに適切な協力をせずに事態が悪化すれば、日本にも戦禍が及ぶことを覚悟しなくてはなりません。これは日本の防衛に限りなく近い状況ですから、このような状況は米国に巻き込まれるという心配をするケースではありません。
ただし、もし朝鮮半島有事の際に日本が自国に閉じこもって協力をしなかった、それにもかかわらず幸いにも事態が収束したとします。その時点では、日本は巻き込まれるリスクを取らずに日本の平和を保てたことで一時的には得したことになります。しかし、その後、アメリカから見れば同盟国日本に対する信頼は大きく揺らぎ、その後の同盟が弱まる大きなリスクを抱えることになります。その場合における見捨てられのリスクはかなり大きくなると考えておくべきです。
さらに、日本が心配するもう一つの巻き込まれのケースです。恐らく、中東地域などで、日本の防衛とは直接関係ないところでアメリカの戦闘に巻き込まれることかと思います。しかし、今回の法制では、国連PKOにしても国際平和共同対処にせよ、武力行使が必要な戦闘ミッションに参加することは想定されておりません。たとえアメリカが日本に対して中東で米国主導の多国籍の戦闘ミッションに参加してくれという強い要請があっても、法的に参加不可能です。
そもそも、今のアメリカが日本にそのような強い要請をすることも想像できません。なぜなら、米国には、それぞれの地域で米国に協力する同盟国や友好国がいるからです。今、アメリカは、シリア、イラクで脅威になっている過激組織イスラム国に対して、イラク軍、クルド人の民兵組織、シリアの反政府勢力などと協力して空爆や特殊作戦を行っていますが、地域の同盟国であるサウジアラビア、ヨルダン、UAE、トルコなどが共同作戦に参加しております。
2003年のイラク戦争当時とは異なって、アメリカにとって喫緊の脅威とは核兵器とミサイル能力を向上させている北朝鮮であります。それから、最大の潜在的な脅威は、世界第二の経済規模の下に軍事力の近代化を進め、最近も抗日七十周年記念で大きな軍事パレードを行った中国です。オバマ政権は、ブッシュ政権が開戦したイラク戦争は米国の国力をそぎ、北朝鮮や中国に優位性を与えてしまった戦略的な間違いだと考えており、日本や韓国には、むしろ自らの防衛を強化し、地域での米国との安全保障協力を深めることを期待しています。その意味で、中東での米国の戦争への巻き込まれを過度に心配する必要はありません。
日米同盟も重要ですが、将来を見渡すと、日本は東アジア地域の国々と平和を維持するための多国間の安全保障協力、信頼醸成措置、これを形成していく必要があります。今回の法案の国際平和共同対処事態法では、諸外国の軍隊等に対する捜索救助、協力支援活動を想定しています。すぐには難しくても、今後、日本が東南アジア諸国と安定した多国間の協力体制を形成し、中国をその協力のネットワークに入れていくことができれば、東アジアはより安定します。これを協力をしていけば、日本は頼れるパートナーとして認知されます。今回、国際平和共同対処事態法は例外なき国会の承認が前提ですから、日本人の主体的な意思として行っていく政策を担保する法律だと思います。
最後に、現在の安保法制は、専守防衛という憲法九条の精神を変えるようなものではありません。ただ、専門家からすれば、グレーゾーン事態の対処についてまだまだ不備な部分が多くあります。ただ、武力行使の新要件により歯止めは十分だと思います。
法律は、いずれにせよ万能ではありません。国際情勢が変わったり軍事力が変われば変えなくてはいけません。東日本大震災での津波、原発事故、あるいは最近の集中豪雨、こういうのを見ても、我々人間は想定できることしか準備できないんです。それでも、想像力を最大限に駆使して、想像できる最悪の事態に対処できるようにするということが、我々今の日本人の世界や後世の子孫に対する責任だと思います。
御清聴ありがとうございました。
○団長(鴻池祥肇君) ありがとうございました。
次に、水上公述人にお願いをいたします。水上公述人。
○公述人(水上貴央君) 弁護士の水上貴央でございます。よろしくお願いいたします。
さて、公聴会とは、国会法第五十一条に法定された正式な会であり、特に重要な法案については、重要な利害関係者や学識経験者等の意見を聴いて、慎重かつ充実した審議を実現するためにあるものと理解しています。私も、昨日、中央公聴会を拝見させていただきましたが、元最高裁判事の濱田先生がまさにこの法案を明確に違憲と断じ、さらに、今後、裁判手続において違憲無効判決が出ることについても示唆されるなど、極めて重要な意見を述べられたと考えています。奥田公述人のすばらしいスピーチに心動かされた方も多かったのではないかと思います。
まさに多くの参酌すべき公述がなされ、集中審議を含め、最後まで審議を尽くすべきこのタイミングで、その後の理事会において、本日、この後、更に審議をされ、取りまとめ、終局という審議日程が強行されました。
私は一介の弁護士にすぎませんが、それでも、業務の予定を変更し、この場に来ています。本日臨席されている公述人の方々も、あるいは昨日来られた六人の公述人の方々もそれぞれ大変忙しい方ばかりです。そういった人たちが日常の仕事を調整してまで公聴会に参加しているのは、一人一人の国民が民主主義の一端を担っているという自覚からです。公聴会で公述することがより実のある審議に資すると考えるから参加しているのです。
私は、昨日の中央公聴会を拝見し、この国の民主主義に希望を持ち、一方、その後の理事会の経緯を見て、この国の民主主義に絶望しつつあります。公聴会が採決のための単なるセレモニーにすぎず、茶番であるならば、私はあえて申し上げるべき意見を持ち合わせておりません。
委員長、公述の前提としてお伺いしたいのですが、この横浜地方公聴会は慎重で十分な審議を取るための会ですか、それとも採決のための単なるセレモニーですか。
○団長(鴻池祥肇君) この件につきましては、各政党の理事間協議において本日の横浜の地方公聴会が決まったわけです。その前段、その後段についてはいまだに協議が調っておりません。
○公述人(水上貴央君) 是非とも、公聴会を開いたかいがあったと言えるだけの十分かつ慎重な審議をお願いしたいと思います。
それでは、意見を申し上げたいと思いますが、既に大分持ち時間が過ぎてしまいました。私、資料四に本当は今日申し上げたかった原稿をお示ししてありますので、是非そちらを御覧いただきたいと思います。ここでは、特に重要な点に絞って、時間の限りお話ししたいというふうに思います。
まず、後方支援に関する問題についてお話しします。
この法案は、重要影響事態における後方支援として、世界中の戦闘地域に隣接するものも含めた現に戦闘が行われている現場以外において、発艦準備中の戦闘機に弾薬の補給等まで行えるというようにしています。この行為が武力行使に密接な準備行為であり、武力行使との一体化として憲法第九条に反するのではないかというのがここでは問題になっています。これを考えるに当たっては、逆に日本が攻撃されている場面を考えてみることが重要です。
資料1の5ページ及び6ページを御覧ください。
まず、5ページは、我が国に対してA国が攻撃をしてきている場合、具体的には、我が国に対してA国の航空機、爆撃機がミサイルで攻撃をしてきて、ミサイルを撃ち終わった航空機が再び我が国の領海のすぐ外の公海で補給艦で補給を受けるという場面です。これは、A国が爆撃機で攻撃してきて、A国の補給船がそこに弾薬を補給するという場面ですから、政府の説明でも、当然に個別的自衛権を行使できる場面だというふうに説明がされています。
次のページ、6ページを御覧いただきますと、このA国が行った補給艦の部分をB国が行ったらどうなるかという事例になります。これについては、国際法上の常識から考えれば、当然にB国に対しても、少なくともこの事例、爆撃機に対して弾薬を補給して、直ちにその爆撃機が再び日本に攻撃しに来るという事例においては、B国の補給艦に対して個別的自衛権が行使できるはずです。
というのは、このような武力攻撃とまさに密接不可分な行為を行う行為はもはや中立国の行為とは認められず、この国、B国自体が交戦国となってしまいますから、国際法上はB国の補給艦は軍事目標になります。したがって、当然に個別的自衛権が行使できるはずです。逆に言うと、これができないということになると、日本はずっと攻撃され続けてしまうということになります。我が国の安全保障が極めて深刻な影響を与えられるということになります。
ところが、今回政府は、このような場合のB国に対して、反撃できない、自衛権行使できないという答弁をされました。これはどういうことかというと、その次のページ見ていただきますと、今度は、このB国の立場が日本になった場合どうなるかという話です。
つまり、例えばアメリカがA国の立場になり、その補給をする国が日本になった場合に、日本はその当該アメリカから攻撃を受けている他国から個別的自衛権を行使されますかというときに、個別的自衛権が行使されるということになると、個別的自衛権の行使の対象は武力攻撃ですから、日本がやっているのはアメリカと一体化した武力の行使だということになってしまいますので、日本は、この行為を武力の行使と一体化していないと説明をするためには、B国に対しても反撃できないというふうに言わざるを得ないという状態になったんです。これは明らかに、全世界でアメリカの武力攻撃を支援するために我が国の自国防衛を犠牲にしたということです。むしろ、我が国の安全保障が重要だと考えるんだとすれば、このような法律を作ってはいけないのです。
一方で、そのことに対して追及された政府は、その後の答弁において、このような場合においてもやはり個別的自衛権が行使できる場合がある、B国に対してという答弁をしました。答弁を変えました。このように答弁を変えるということ自体が問題ですが、今度は、もしここにB国に対する個別的自衛権が行使できるとすれば、やはりこのB国の立場に日本がなった場合に、これは武力行使と一体化しているではないかという問題が生じます。つまり違憲なのです。
どういうことかと申しますと、この法案は、実態において違憲な、武力行使と極めて密接な準備行為を行い、それを隠し立てするために我が国の個別的自衛権を犠牲にしている法案なのです。政府・与党が本当に日本の安全保障環境を重視し、我が国を守ろうと思うのであれば、どうしてこのような違憲で、かつそれを隠すために自国防衛を犠牲にするような法律を作るのでしょうか。この法案はどこを向いて作られているのでしょうか。これがまず一つ重大な問題です。
もう一つ大変重要な問題が、自衛官による武器使用という問題です。
資料1でいうと、9ページを御覧ください。
本法案では、他国の武器等を守るために自衛官が武器を使用して守れるという条文、これは自衛隊法九十五条の二という条文にございます。この条文の主語は自衛官です。自衛隊ではない、国でもない、自衛官です。そして、この守ることができる対象になっている武器等には艦船や航空機が含まれています。イージス艦が守れるということになります。つまり、どういうことかというと、自衛官個人がアメリカのイージス艦を武器を使って守るというとんでもない規定になっています。
このように明らかに不合理な条文になっているのは、この行為をもしも我が国自身がやっている、組織的にやっているということになれば、これは明確に武力の行使だからです。武力の行使だと言われないためには、自衛官個人がやったということにしなければならないのです。しかし、条文に自衛官と書いたからといって、この行為の本質が変わるでしょうか。実際には、明らかに武力の行使です。
更に申し上げますと、この場合には新三要件の縛りはありません。存立危機事態も認定されません。つまり、これは完全にフルスペックの集団的自衛権です。つまり、政府はこの条文においてフルスペックの集団的自衛権を認めてしまっています。限定されてもいません。以上より、この条文は明確な違憲条文であり、自衛隊法95条の2は必ず削除しなければなりません。
ちなみに申し上げますが、共産党等が提出された自衛隊の資料によると、この九十五条の二は使う気満々です。
さらに、このような不合理な規定を取ったことによって一番しわ寄せを受けるのは、何と自衛官です。どういうことかと申しますと、この条文の主語は自衛官ですから、もしも万が一、他国が自国の民間船を盾にして攻撃してきたときに、それを自衛官が守って、それが正当防衛や緊急避難を成立させない場合には自衛官個人が責任を取ることになります。我が国の刑法、あるいは当該攻撃をしてしまった国の国内法で罰せられる可能性があります。
自衛官は、一方で、自衛隊法122条の2という条文で、上官の命令に従わなければ罰則が加えられます。自衛官は、上官の命令に従ってやむを得ず武器を使用した結果、正当防衛や緊急避難が成立しなければ罰せられる可能性があります。これは、自衛隊、自衛官の皆さんに胸が張れますか。我が国を守ってくれている自衛官の皆さんに胸が張れますか。
このように、この法案は違憲の問題を抱えているだけではなくて、法律自体が欠陥法案であり、また、極めて不当な結論を導くような不当法案です。したがって、まずは、政府は改めるべきところは改め、しっかりと合憲の枠組みをつくることができるのかということを模索するべきです。
国会は立法をするところです。政府に白紙委任を与える場所ではありません。ここまで重要な問題が審議において明確になり、今の法案が政府自身の説明とも重大な乖離がある状態でこの法案を通してしまう場合は、もはや国会に存在意義などありません。これは、単なる多数決主義であって民主主義ではありません。
○団長(鴻池祥肇君) 陳述時間を過ぎておりますので、簡潔におまとめください。
○公述人(水上貴央君) 分かりました。
参議院がその良識を放棄したと国民に判断されないためには、今まさにしっかりとした審議を尽くすべきです。60日ルールを使われたら参議院の存在意義がなくなるなどと言う方がいますが、参議院がその良識を放棄してしまったら、それこそ参議院の存在意義など国民は決して認めません。
今こそ参議院の議員の先生方の良識に期待し、我々はそれを注視していることを申し上げ、私の意見とさせていただきます。
ありがとうございました。
○団長(鴻池祥肇君) 以上で公述人の方々の御意見の陳述は終わりました。
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